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63話 料理コンテストの開催

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-08-14 07:00:02

 彼女はシカ肉を前にして、包丁を握りしめながら首を小さく傾ける。

「あれ? あれれぇ……どうやって切るんだろぉ……?」

 その声には困惑よりも好奇心が滲み、包丁の刃先と肉を交互に見つめる瞳がくるくると揺れていた。やがて、指先を唇にちょこんと添え、考え込むようにぽつりとつぶやく。

「うーん……難しいなぁ〜」

 野菜を刻む段になると、レティアは肩をきゅっとすくめてから、両手で包丁を持って構える。だがすぐに「あれれ〜?」と首を傾げ、指先でくるくるとまな板の上の野菜を並び替え始める。

 その動きはどこかおままごとのようで、バラバラに刻まれた野菜たちが彼女の小さな奮闘を物語っていた。

 レティアは、不意に包丁をぽんっとまな板の脇に置き、ふんわりとエプロンの裾をつまみ上げる。小さな指先が布をきゅっと握るその仕草は、戸惑いの中にも女の子らしい控えめな甘さがにじんでいた。

「うまくできないよぉ〜……」

 小さな声でぽつりとこぼし、ふくれた頬のまま周囲を見回す。その瞳は、ほんの少し潤んだようなきらめきを浮かべながら、助けを求めるように瞬きする。

「だれかぁ~……助けてほしいな?」

 言葉には照れ混じりの甘えが乗っていて、見ていた者たちの心を自然とくすぐった。

 額には、調理場の熱気と不慣れな作業のせいで、小さな汗がにじんでいる。その一滴が髪の間からこぼれ落ちるたびに、どこか頼りなげでいじらしく、見る者の胸にぽっと灯をともす。

 その姿は、ぎこちなくも、あまりにも愛らしかった。まるで春の朝に咲いたばかりの花のように――周囲の冒険者たちは自然と足を止め、思わず微笑みを交わして集まってきた。

「おいおい、そっちじゃなくてこっちに包丁入れるんだって!」  笑いをこらえきれず助け舟を出す者がいれば、 「肉を焼くタイミングはこうやるんだよ!フライパンの熱を指先で感じてみろ!」  と得意げに説明する者も現れた。

 レティアは「わかんないよぉ〜」と頬をふくらませな

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